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ピラフとチャーハンの違い

お皿に盛られたピラフとチャーハン。見た目はどちらも「味付きごはん」ですが、その作り方、歴史、そして中にかくれている科学までたどっていくと、実は全くちがう考え方から生まれた料理だと分かります。

この記事では、それぞれのルーツから調理のしくみまでを整理していきます。

結論から言うと、ピラフは「生のお米を油で炒めてからスープで炊く料理」、チャーハンは「炊いたご飯をあとから油で炒める料理」です。

たったこれだけの順番の違いが、味や食感だけでなく、歴史や文化的な役割まで大きく変えるポイントになっています。

もくじ

ピラフとチャーハンの基本的なちがい

まずは、作り方の流れをシンプルに整理します。

ピラフ
・生のお米をバターや油で炒める
・その後、スープやブイヨンを入れて炊く
・炊いている間に、スープの味が米の中までしみ込む
・一粒一粒がふっくらしつつ、べたつきにくい

チャーハン
・いったん普通にご飯として炊く
・炊いたご飯を冷ましたり、少し時間をおいておく
・高温の油で、ご飯と具材、調味料を一気に炒める
・表面は香ばしく、パラパラした食感になる

つまり、ピラフは「炒めてから炊く」、チャーハンは「炊いてから炒める」料理です。
ピラフは中身に味を吸い込ませるタイプ、チャーハンは表面に味と香りをまとわせるタイプと考えるとイメージしやすくなります。

科学の目で見るピラフとチャーハン

ここからは、少しだけ「理科」の視点で見てみます。

お米の中身 アミロースとアミロペクチン

お米の主成分はデンプンで、デンプンは大きく分けて二つのタイプを持っています。

・アミロース
直線的な形の分子。多いほど硬くてパラッとしたご飯になりやすい。
インディカ米(長いお米)はアミロースが多く、ピラフやパラパラのチャーハンに向いていると言われます。

・アミロペクチン
枝分かれした形の分子。多いほどモチモチ、ねっとりした食感になる。
日本の短いお米(ジャポニカ米)はアミロペクチンが多く、冷めてもモチモチしやすいのが特徴です。

ピラフは、アミロースが多いお米を使うと特に一粒一粒がきれいに離れやすくなり、チャーハンは日本のご飯のように粘りが強いお米でも「工夫」でパラパラに近づけることができます。

ピラフは「油のコーティング」がポイント

ピラフでは、生のお米を最初に油やバターで炒めます。このとき、

・お米の表面に油の膜ができる
・水を一気に吸い込みにくくなる
・デンプンが外に溶け出しにくくなる

その結果、米どうしがくっつきにくくなり、炊きあがったときにパラっとした仕上がりになります。
さらに、そのあとで加えるスープの味が、時間をかけてお米の中までしみ込んでいきます。だからピラフは「中までしっかり味がするご飯」になりやすいのです。

チャーハンは「冷ます」と「卵」がカギ

一方チャーハンは、まず普通にご飯を炊いたあと、そのご飯をすぐ使わずに少し冷ましたり、時間を置いたりするのがコツとされます。

・炊きたてのご飯
デンプンが水をたっぷり含んで柔らかく、ねばりが強い状態

・冷めたご飯
デンプンが少し固まり直し、表面のベタベタが減ってくる

この「冷めたご飯」を高温の油で炒めると、水分が飛び、表面に油の膜ができて、パラパラした食感に近づきます。

さらに、チャーハンづくりで大活躍なのが卵です。

・先に卵を油で炒める
・半熟状態のうちにご飯を入れて一気に混ぜる

こうすると、卵がご飯の粒を薄く包むように広がり、米同士がくっつきにくくなります。よく言われる「黄金チャーハン」は、この技術を使ったチャーハンです。

体への影響 レジスタントスターチ

チャーハンのように、一度炊いたご飯を冷ましてから再加熱すると、「レジスタントスターチ」と呼ばれる、少し消化されにくいデンプンが増えることが分かっています。

・小腸で吸収されにくく、食物繊維に近いはたらきをする
・血糖値の上昇をゆるやかにする効果が期待される

ピラフでも、冷ましたり再加熱したりすれば同じような変化は起こりますが、「炊く → 冷やす → 油で高温加熱」という流れをはっきり踏むチャーハンの方が、このレジスタントスターチが増えやすいと考えられています。

どこから来た?共通の祖先「プラーカ」

今では全く別物に見えるピラフとチャーハンですが、もともとは同じようなルーツから分かれていったと言われています。

・古代インドに「プラーカ」や「プラオ」と呼ばれる、米と具材、香辛料を一緒に炊き込む料理があった
・このスタイルがシルクロードを通って西と東に伝わった

そこから先が、面白い分かれ道です。

西へ進んだルート ピラフへ

インドから西へ伝わった米料理は、

・中東、ペルシャ、トルコへ
・オスマン帝国の宮廷料理で洗練される
・生米をバターで炒めてからスープで炊く、現在のピラフの形が確立

その後、トルコからヨーロッパに渡り、フランス料理では「リ・ピラフ」として肉や魚料理のつけ合わせになりました。スペインでは、魚介の旨味を米に吸わせるパエリアといった料理につながっていきます。

基本の考え方は一貫していて、「具材やスープの旨味を米に吸わせる炊き込みご飯」というイメージです。

東へ進んだルート チャーハンへ

東に向かった米料理の考え方は、中国で別のかたちに変化します。

・中国では、もともと「白いご飯を炊いて食べる」文化が強かった
・余ったご飯を無駄にしないために、具材と一緒に炒めて再利用するようになった

隋の時代の文献には、「砕金飯」と呼ばれる料理が登場します。卵で炒めたご飯が金色に見えたことから、砕いた金にたとえて名付けられたと考えられています。ここから、「卵でご飯を炒めるチャーハン」の原型が見えてきます。

やがて中華鍋と強い火力が組み合わさり、短時間で水分を飛ばして香ばしさを出す、今のチャーハンスタイルが発達しました。こちらは「余ったご飯をおいしく生まれ変わらせる再生の料理」として育っていったと言えます。

日本での受け止め方と「焼き飯」のややこしさ

日本に入ってくると、ピラフとチャーハンの違いはさらにややこしくなります。そこに「焼き飯」という第三の言葉も加わるからです。

「チャーハン」と「焼き飯」の地域差

日本では、おおまかに言うと次のようなイメージがあります。

・関東
中華料理店を中心に「チャーハン」という呼び方が主流。
中華鍋で炒めるスタイルが基本。

・関西
「焼き飯」という言い方がよく使われる。
お好み焼きや焼きそばと同じように、鉄板でご飯を焼くように炒める文化もある。

さらに、卵を入れる順番で区別する考え方もあります。

・チャーハン
先に卵を入れ、半熟のところにご飯を入れて一気に混ぜる
ご飯を卵がコーティングして、パラパラ感を出す

・焼き飯
先にご飯をしっかり炒め、最後に卵を入れたり、卵を使わなかったりする場合もある
鉄板やフライパンで「ご飯を焼く」香ばしさを重視する

このように、言葉だけでなく、道具や調理の考え方にも地域性が表れています。

「喫茶店のピラフ」は本当にピラフか

日本でさらにややこしいのが、喫茶店やファミレスの「ピラフ」です。

本来のピラフ
・生米を炒めてからスープで炊く
・完成まで時間がかかる

喫茶店のピラフ(よくあるパターン)
・すでに炊いた白ご飯を使う
・マーガリンやバターで炒める
・コンソメや「ピラフの素」で味付けする

調理法だけを見ると、これは「洋風のチャーハン」や「洋風焼き飯」に近い存在です。
しかし、日本では

・バターとコンソメの味がすると「ピラフ」
・醤油やごま油の香りがすると「チャーハン」

という「味のイメージ」で名前が決まってしまっていることが多いです。このため、「ピラフとチャーハンの違いがよく分からない」という混乱の原因になっています。

世界のいろいろなピラフとチャーハンの姿

視野を広げると、各国でピラフやチャーハンの仲間が独自の進化をしています。

トルコのピラフ シェヒリイェリ・ピラウ

トルコでは、ピラフ(ピラウ)は家庭料理の主役級の存在です。中でも有名なのが、細いパスタを一緒に炒めるスタイルです。

・最初にパスタだけをバターでこんがりきつね色になるまで炒める
・そこに洗った米を加え、さらに炒める
・お湯と塩を加えて炊きあげる

白いご飯の中に、こんがり色づいたパスタがところどころ混ざり、香ばしさと食感のアクセントになります。
トルコでは、スプーンから米が一粒ずつサラサラ落ちる状態が「良いピラフ」とされていて、昔は花嫁さんの料理の腕前を測る目安と言われたこともあるほどです。

中国の揚州炒飯

チャーハンの代表としてよく挙げられるのが、中国の揚州炒飯です。

・具材に卵、ハム、貝柱、野菜などを使う
・お米はパラっと仕上がる品種が好まれる
・色合いや具材のバランスも重視される

技法の一つに、「金包銀」という考え方があります。
これは、「白い米(銀)を卵(黄金)で包む」という意味で、卵液で一粒一粒をコーティングするイメージです。ピラフのように中まで味をしみ込ませるのではなく、表面を美しくおいしく仕上げる発想が強く表れています。

まとめ 吸い込む料理と、生まれ変わる料理

ここまで見てきたように、ピラフとチャーハンの決定的な違いは「いつ油と出会うか」「いつ水と出会うか」という順番にあります。

ピラフ
・生米を油で守りながら炒める
・スープを吸わせながらじっくり炊く
・味は中までしっかりしみ込み、「お米そのものがスープの味」になる料理

チャーハン
・いったん炊いたご飯を使う
・冷ましてから高温の油と卵で一気に炒める
・味と香ばしさは米の表面にまとわせ、「ご飯を再びおいしく生まれ変わらせる」料理

歴史的には、どちらも古代インドの「プラーカ」という一つの米料理から出発しました。西へ進んだルートは、バターとスープの文化の中で「吸収の料理」としてのピラフに育ち、東へ進んだルートは、余ったご飯を上手に使う知恵から「再生の料理」としてのチャーハンになりました。

日本では、「焼き飯」という言葉や、喫茶店のピラフの存在のせいで、調理法よりも「味のイメージ」で名前が使われている場面も多くあります。それでも本質は、

・ピラフは、旨味を中に吸い込ませる料理
・チャーハンは、ご飯をもう一度おいしく作り変える料理

という二つの考え方の違いにあります。
次にピラフやチャーハンを口にするとき、「これは吸収タイプかな、生まれ変わりタイプかな」と意識してみると、いつもの一皿が少し違って感じられるかもしれません。

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