「長時間座ってもあまり疲れないイスって、どんなイスなのか」を、人間工学という考え方から分かりやすくまとめていきます。
ゲームや勉強で、気づいたら何時間も座りっぱなし、なんてことありますよね。実は、人の体は本来、長時間座るようにはできていません。だからこそ、「どんなイスに」「どう座るか」がとても大事になります。
なぜ座ると疲れるのか
人間の体は、もともと立って歩くことを前提に進化してきました。立っているとき、背骨はS字カーブになっていて、頭や上半身の重さがうまく分散されています。
ところが、普通のイスに座ると、多くの場合こうなります。
・骨盤が後ろに倒れる
・背骨のS字カーブがつぶれて、C字型になる
・腰の骨や筋肉に無理な力が集中する
この姿勢が続くと、腰痛、肩こり、足のむくみ、だるさ、集中力低下など、いろいろな「疲れ」が出てきます。
つまり、「疲れにくいイス」とは、背骨のS字カーブを守りつつ、長時間座っていても血流や筋肉に負担がかかりにくいイスと言えます。
骨盤と背骨を守ることが最重要
仙骨座りを避ける
特に良くないのが「仙骨座り」と呼ばれる座り方です。
・おしりを前の方にすべらせる
・背もたれにだらっともたれかかる
・腰のあたりが丸くなっている
この座り方だと、背骨がC字型になり、仙骨という骨の部分に体重が集中してしまいます。これが、腰痛や疲れの大きな原因になります。
疲れにくいイスは、骨盤が少し前に起きた「ニュートラル」な位置をキープしやすい形になっていることが大切です。
ランバーサポートの役割
背もたれの腰あたりに「ふくらみ」や「クッション」がついているイスがあります。これがランバーサポートです。
・背骨のS字の一番くびれている所を、そっと支える
・強すぎず、弱すぎず、「手のひらで軽く支えている」くらいの感覚が理想
高さが合っていないランバーサポートは逆効果になります。低すぎるとおしりを押し出しすぎ、高すぎると猫背になりやすいので、調整できるタイプが良いとされています。
おしりと太ももを支える「座面」のひみつ
座っているとき、体重の多くは「坐骨結節」というおしりの骨の2点に集中します。硬すぎるイスだと、この2点に強い圧力がかかり、しびれや痛みが出やすくなります。逆に柔らかすぎると、体が沈み込みすぎて姿勢が崩れます。
疲れにくい座面のポイントは次のとおりです。
・おしりの形にほどよくフィットして、接している面を広くする
・一点に体重が集中しないように体圧を分散する
・長時間座っても熱がこもりすぎない
最近多いメッシュチェアは通気性が良くて涼しい反面、前のフレーム部分が太ももの裏を押してしまうことがあります。太ももの裏には血管や神経が通っているので、ここが強く押されると、むくみやしびれの原因になります。
そのため、座面の前の方がなめらかに下がっていたり、クッションが入っていたり、座面の奥行きを調整できたりする構造が大切になります。
実は「じっとしていること」自体が疲れのもと
昔の考え方では、「正しい姿勢でじっと座ること」が良いとされていました。しかし最近の研究では、「一番良い姿勢は、次の姿勢」という考え方が広まっています。
長時間、全く同じ姿勢でいると
・筋肉がずっと同じ所を使い続けて疲れる
・血液の流れが悪くなる
・代謝が落ちて、だるさや眠気が出やすくなる
という問題が起こります。
そこで大事なのが、「座ったままでも体を少し動かせるイス」です。
シンクロロッキングとは
背もたれを倒すとき、安いイスだと、背もたれと座面が一緒にガクっと動いて、太ももが持ち上がってしまうことがあります。これだと足が床から浮き、太ももが圧迫されて、疲れの原因になります。
シンクロロッキングは
・背もたれと座面が違う角度で連動して動く
・背もたれは大きく倒れるが、座面はほぼ水平に近いまま
・かかとが床についたまま、体を伸ばせる
といったしくみで、姿勢を変えやすくしつつ、脚への負担を減らしてくれます。
前傾チルト機能
勉強やタイピングをしていると、自然と体が前のめりになります。このとき、普通のイスだと背中が背もたれから離れ、猫背になりがちです。
前傾チルト機能があるイスは
・座面が少し前に傾く
・背もたれもそれに合わせて少し前に寄る
ことで、前かがみになっても背骨のS字カーブを保ちやすくなります。おなかの圧迫も減るので、呼吸もしやすくなり、頭もすっきりしやすいと言われています。
座面が揺れるイス(アクティブシーティング)
コクヨのingのように、座面が前後左右に揺れるイスも登場しています。
・座るだけで、体がバランスをとろうとして、体幹の筋肉が少しずつ動く
・じっと固まらないので、筋肉がこりにくい
・軽い揺れがリラックスにつながることもある
こうした「座りながら動けるイス」は、長時間座る人の新しい選択肢になっています。
ひじ置きとヘッドレストの役割
アームレストは肩こり対策になる
人の両腕を合わせると、体重の約1〜2割分くらいの重さがあります。腕を浮かせたままキーボードを打ち続けると、肩の筋肉がずっと腕を支え続けることになり、肩こりや頭痛の原因になります。
良いアームレストは
・高さを調整できる
・前後や左右、角度も変えられる(3D、4Dアームなど)
・肘を90度くらいに曲げたとき、力を抜いて前腕を自然に置ける
といった特徴があります。体に合った位置に肘を預けられると、肩の負担がかなり減ります。
ヘッドレストは「後ろにもたれる時間」が多い人向け
ヘッドレストは、後ろに少し倒れて考えごとをしたり、画面を眺めたりするときには、とても役に立ちます。頭の重さを預けられるので、首の筋肉が休めます。
ただし、前傾姿勢で集中して作業しているときは、ヘッドレストはあまり使いませんし、場合によっては邪魔になることもあります。そのため
・高さや位置を調整できる
・いらないときは後ろに逃がせる
ようなヘッドレストがあると、いろいろな姿勢に対応できます。
自分の体格に合っているかが超重要
どんなに高機能なイスでも、「自分の体に合っていなければ」疲れます。その中でも特に大事なのが座面の高さと奥行きです。
足の裏が床につくかどうか
基本ルールはとてもシンプルで、「足の裏全体がしっかり床についていること」です。
・足が浮いている
・つま先しかつかない
といった状態だと、太ももの裏が強く押され、血流が悪くなり、むくみやだるさにつながります。背中も安定しにくくなります。
海外製のチェアは、最低の座面高が日本人には少し高いことがあり、小柄な人には合わない場合があります。日本メーカーのイスは、比較的小柄な人にも合わせやすい高さまで下げられるものが多いです。
座面の奥行き調整
奥行きが合っていないイスだと
・大柄な人は太ももが乗り切らず不安定
・小柄な人は背もたれまで届かない、または膝の裏が強く当たる
という問題が起こります。
理想は
・おしりと腰をしっかり背もたれにつける
・その状態で、膝の裏と座面の前端との間に指2〜3本分のすき間がある
という長さです。この状態だと、太ももがちゃんと支えられつつ、膝裏も圧迫されません。
ゲーミングチェアとオフィスチェアの違い
「疲れにくい」と宣伝されるイスの代表として、ゲーミングチェアとエルゴノミクスオフィスチェアがありますが、考え方が少し違います。
ゲーミングチェア
・車のシートのように、体を左右からしっかり固定
・深くリクライニングして、寝るような姿勢で使うのが得意
・クッションが厚く、包まれるような感覚
オフィスチェア
・体を強く固定しすぎず、自然な動きを邪魔しない
・背骨や骨盤を支えつつ、姿勢を変えやすい
・通気性や細かな調整機能が充実
長時間の勉強や仕事で頭をシャキッと保ちたいなら、微調整が多くできるオフィスチェアが有利な場合が多いです。一方で、ゲームに没頭したり、休憩時のくつろぎを重視するなら、ゲーミングチェアのような座り心地を好む人もいます。
「疲れにくいイス」チェックリスト
最後に、ここまでの内容をまとめたチェックリストを紹介します。
【必ず欲しいポイント】
・座面の高さを自分の膝下の長さに合わせられる(足の裏が床につく)
・背骨のS字カーブを支えるランバーサポートがあり、高さや強さを調整できる
・おしりの骨に一点集中しない、体圧分散に優れた座面
・仙骨座りになりにくい形状(おしりが前にすべりにくい)
【できれば欲しいポイント】
・シンクロロッキング機能で、姿勢を変えやすい
・アームレストの高さや位置、角度を調整できる
・座面の奥行きを調整でき、膝裏と前端に少しすき間ができる
【あるとさらにうれしいポイント】
・前傾チルト機能で、勉強やPC作業の姿勢をサポート
・座面が少し揺れるなど、体をかるく動かせるアクティブな機能
・位置を調整できるヘッドレスト(後ろにもたれて考える時間が多い人向け)
この条件で選ぶ「いい感じの椅子」まとめ
ブログで挙げた条件
・骨盤と背骨を守るランバーサポート
・足がしっかり床につく座面高
・座面奥行き調整や体圧分散
・シンクロロッキングや前傾チルト
・アームレストやヘッドレストの調整
・できれば「座りながら動ける」機構
これらを意識して、日本から買いやすいモデルを価格帯別にピックアップします。
ざっくりした選び分けの目安
- 3〜5万円台
RESTIVA-01 / サリダ YL9
→ 予算を抑えつつ、シンクロロッキングやランバーサポートを体験したい人 - 5〜10万円前後
Hinomi H1 Pro / コクヨ ing / オカムラ シルフィー
→ 調整機能が豊富で、日本人の体格にも合いやすい「本命ゾーン」 - 10万円以上
Steelcase Gesture / アーロンチェア / コンテッサ セコンダ
→ 「長時間デスクワークが当たり前」「体への投資は最優先」という人向けの最上位クラス
3〜5万円台ではじめやすいモデル
オフィスコム RESTIVA-01
オフィスチェア RESTIVA-01 商品ページ(オフィスコム)
ポイント
- シンクロロッキング搭載で、背もたれと座面が連動して動く
- 独立式ランバーサポート付きで、腰をピンポイントで支えられる
- 座面スライドで奥行き調整が可能
- ヘッドレスト・フットレストつきのフル装備モデル
- メッシュ背+クッション座面で、体圧分散と通気性のバランスが良い
ブログのチェックリストで言うと
「ランバー・体圧分散」と「シンクロロッキング、奥行き調整、アーム、ヘッドレスト」をかなり低価格で満たしやすい「コスパ枠」です。
イトーキ サリダ YL9
サリダチェア YL9 商品ページ(イトーキ公式)
サリダチェア YL9 可動肘モデル(商品詳細)
ポイント
- 背もたれとヘッドレストに高機能エラストマー素材を使用し、背骨のS字カーブにフィット
- エクストラハイバック+ヘッドレストで上半身全体をサポート
- 可動肘(アームレスト)で肩の負担軽減
- 通気性の高いメッシュ構造で、温熱的な疲労を減らしやすい
ブログ視点では
・ティア1の「体圧分散」「骨盤周りのサポート」
・ティア2の「可動アーム」「ヘッドレスト」
を押さえつつ、価格は3〜4万円台に収まりやすい、入門〜中級向けエルゴノミクスチェアです。
5〜10万円クラスの本格エルゴノミクス
Hinomi H1 Pro V2
Hinomi H1 Pro V2(HINOMI Japan 公式)
ポイント
- 3Dランバーサポートで、腰を立体的に支える
- 5Dアームレストで高さ・前後・左右・角度など細かく調整可能
- 16カ所の調整ポイントで、座面高さ・奥行き・リクライニングなどを体格に合わせて最適化
- 3Dヘッドレストと収納式フットレストつき
- 身長およそ155cm〜204cmまでをカバーすると公式が明記
条件をほぼ全部カバーしていて、「自分の体に合わせて細かくいじりたい人」向けの万能型です。小柄な人も調整次第で合わせやすいのが強みです。
コクヨ ing
ing シリーズ特設ページ(コクヨ ファニチャー)
360°座面が動くワークチェア ing | Workstyle Shop
ポイント
- 2層構造の「グライディング・メカ」で座面が前後左右360度ゆれる
- バネを使わず重力を利用した揺れで、体幹の深層筋を自然に動かし続ける設計
- 前傾・後傾・左右のひねりまでチェアが追従し、「座りながら運動」に近い状態をつくる
「アクティブシーティング(座りながら動く)」を象徴するモデルで、長時間座りっぱなしで腰やおしりが固まりやすい人に合います。
オカムラ シルフィー
シルフィー 特設ページ(オカムラ公式)
シルフィー 製品情報(詳細スペック)
ポイント
- 背もたれのカーブを変えられる「バックカーブアジャスト」で、小柄〜大柄までフィットさせやすい
- 前傾機能付き・背座シンクロリクライニングで、前傾作業と後傾リラックスを両立
- 異硬度クッションで、太もも側は柔らかく・おしり側はしっかり支える体圧分散設計
- 座面高さはおよそ420〜520mm、座面奥行きも約50mmスライド可能で、日本人の体格に合わせやすい
- 「骨盤安定+体圧分散」、「シンクロロッキング・座面高・奥行き調整・可動アーム」をバランスよく押さえた、「日本人向けど真ん中」の定番エルゴノミクスチェアです。
10万円オーバーのプレミアムクラス
スチールケース Gesture
ポイント
- 3D LiveBackテクノロジーで、背もたれが背骨の動きに合わせてしなやかに追従
- 背・座・アームが「シンクロインターフェイス」として設計され、姿勢変化にあわせて一体的に動く
- 360°回転アームで、スマホ・タブレット・ノートPCなどさまざまな姿勢をサポート
ティア1〜2を高度なレベルで満たしつつ、「どんな姿勢でも腕を支えてくれる」アームが非常に優秀です。マルチデバイスを使う人や、いろいろな姿勢で長時間作業する人に向きます。
ハーマンミラー アーロンチェア(リマスタード)
ポイント
- ポスチャーフィットSL(仙骨+腰椎を個別に支える2つのパッド)で、骨盤を立てた姿勢を維持しやすい
- ペリクルメッシュによる高い体圧分散と通気性
- シンクロロッキングとチルト角度調整機能
- 身長に合わせてA・B・Cの3サイズから選べる(Aは142〜163cm、Bは157〜183cmなど)
「骨盤安定、体圧分散」、「ロッキング機構、アーム調整」を最高レベルで満たす代表的プレミアムチェアです。価格はかなり高いですが、「腰を絶対に壊したくない」「一生モノとして使いたい」人向けです。
オカムラ コンテッサ セコンダ
ポイント
- 世界基準BIFMA X5.1-2017を取得した高強度・高耐久のフラッグシップチェア
- シンクロリクライニング、座面高さ調整、奥行き調整、可動アームなどエルゴノミクス機能をフル装備
- エクストラハイバック+ヘッドレスト仕様を選べば、頭までしっかり支えられる
プレミアム帯の中でも「がっちりした作り」と「長年のオフィス導入実績」が強みです。長時間のPC作業が中心で、かつ後傾で考えごとをする時間も多い人に向いています。
まとめ
「座っていて疲れないイス」とは、単にふかふかで高級なイスではありません。
・自分の骨格や体格にきちんと合っている
・骨盤と背骨のS字カーブを守ってくれる
・じっとさせるのではなく、姿勢を少しずつ変えやすくしてくれる
こうした条件を満たしたイスこそが、本当の意味で「疲れにくいイス」と言えます。
イスは、ただ体を置くための道具ではなく、体の機能を助けてくれる外部の骨格のような存在です。長く座ることが多い人ほど、自分の体に合ったイスを選ぶことが、将来の健康や集中力を守る大事な投資になります。

