なぜ、寒いと鳥肌が立つのか。
そして、なぜこわい話や感動的な音楽でも鳥肌が立つのか。
結論を先にまとめると、鳥肌には大きく次のような意味があります。
- 体毛を立てて体を守るための「進化の名残」
- 寒さを感じて「毛を増やすスイッチ」を入れるしくみ
- こわさや感動を周りに伝える「感情のサイン」
- 神経の病気を見つけるヒントにもなる「医療の手がかり」
ただの「寒い時に出るブツブツ」ではなく、体の中ではかなり本格的なシステムが動いています。
ここから、できるだけ分かりやすく説明していきます。
鳥肌ってそもそも何が起こっているの?
鳥肌が立つとは、皮膚の表面がボコボコして、うぶ毛がピンと立つあの状態のことです。医学的には「立毛」と呼ばれます。
皮膚の下には、「立毛筋」と呼ばれるとても小さな筋肉が、毛の根元についています。
・ふだん
毛は皮膚から斜めに生えています。立毛筋もリラックスした状態です。
・鳥肌が立つとき
立毛筋がギュッと縮むことで、毛根が引っぱられ、毛がまっすぐ立ちます。
同時に、そのまわりの皮膚が少し引きつれて盛り上がり、あの「ブツブツ」ができます。
この立毛筋を動かしているのが、自分の意志ではコントロールできない「自律神経」の一つ、交感神経です。
寒さやストレスを感じると、交感神経からノルアドレナリンという物質が出て、立毛筋に「縮め!」という命令が伝わります。
だから、鳥肌は「交感神経が働いていますよ」というサインでもあります。
動物にとっては「天然ダウン」、人間ではほぼ名残り
毛皮を持つ動物では、鳥肌はとても重要な防寒システムです。
・毛が立つ
・毛と毛の間に厚い空気の層ができる
・空気は熱を通しにくいので、体温が逃げにくくなる
つまり、ダウンジャケットの中の空気のように、毛皮の中に「空気のふとん」を作っているのです。
一方、人間は体毛がとても薄くなってしまったので、毛を立てても、空気の層はほとんどできません。
そのため「体温を守る」という点では、正直あまり役に立っていないと考えられています。
このことから、人間の鳥肌は「昔、全身モフモフだったご先祖時代の名残」と説明されてきました。
ただし、最近の研究では、鳥肌が立っている間、皮膚の温度がほんの少しだけ上がることが分かってきました。
上がる温度は0.2〜0.3度くらいと小さいですが、体は今でも一生懸命、寒さに対応しようとしているとも言えます。
実は「毛を生やすスイッチ」にもなっている
鳥肌のもっとおどろくべき役割は、「毛を増やす準備」のスイッチになっていることです。
皮膚の中の毛根には、「毛包幹細胞」という毛を生やす担当の細胞がいます。
ここに、立毛筋と交感神経が、セットでつながるようにできていることが分かってきました。
しくみを簡単に言うとこうです。
- 寒い日が続く
- 交感神経がずっと活発になり、ノルアドレナリンがたくさん出る
- その信号が毛包幹細胞に届く
- 幹細胞が「そろそろ毛を増やそう」と目覚めて、新しい毛を作り始める
つまり、鳥肌は「短期的には毛を立てる反応」「長期的には毛の量を調整する準備」という、二段階の仕組みのスタート地点なのです。
この仕組みは、抜け毛や薄毛の研究にもつながっています。
重い脱毛では、立毛筋そのものが弱っていたり失われていたりして、幹細胞に信号が届かなくなっているケースもあると考えられています。
また、毛包幹細胞はケガの治りにも関わるため、この回路を上手に利用すれば、ケガが早く治る治療法が生まれる可能性もあります。
こわい時や感動した時に鳥肌が立つのはなぜ?
寒くないのに、ホラー話や感動的な音楽、映画のクライマックスで鳥肌が立つことがあります。
これには、進化と脳の働きが関係しています。
もともとは「敵を威嚇する」ための反応
猫が背中の毛を逆立てて体を大きく見せる様子を思い浮かべてください。
あれも立毛筋が働いた結果です。
・体を大きく見せて「強そう」に見せる
・相手をビビらせて、戦わずにすむ可能性を上げる
人間も大昔は、全身の毛を逆立てて体を大きく見せていたと考えられます。
今は毛が少ないので見た目の効果はほぼゼロですが、脳のプログラムだけが残っていて、「こわい」「緊張した」と感じると鳥肌が立つのです。
音楽で鳥肌が立つのは「ごほうび回路」が働くから
好きな曲のサビや、映画の思わぬ展開でゾワッとするのは、脳のごほうび回路が関係しています。
・脳の快感に関わる場所からドーパミンという物質が出る
・その影響が巡り巡って交感神経を刺激する
・交感神経が立毛筋に命令を出し、鳥肌が立つ
「こわい」「危ない」ときに働くはずだった交感神経が、「感動」「気持ちよさ」によっても動かされているわけです。
「さみしさ」と「寒さ」は脳の中でつながっている?
ある学説では、悲しい音楽でも鳥肌が立つのは、赤ちゃんが親と離れた時の「さみしい鳴き声」と関係していると考えられています。
・親と離れる
→ 体温が下がる危険がある
→ 脳は「寒い・危ない」と判断し、鳥肌などの反応を起こす
このような仕組みが進化の中でできた結果、「さみしさ」「別れ」「再会」を感じさせる音楽や物語が、寒くもないのに鳥肌を引き起こすようになった、という考え方です。
他人を見て鳥肌が立つのは「共感」のスイッチ
他人がつらそうな場面を見たり、感動して泣いているのを見たりして、自分もゾワッと鳥肌が立つことがあります。
サルの仲間の研究では、ストレスを受けて毛が立っている個体を見ると、周りの個体も毛を立てたり、なだめる行動をしたりすることが分かっています。
これは、鳥肌が「今、この子はつらい」「助けが必要かも」というサインになっているということです。
人間でも、他人の痛みや感動を見て鳥肌が立つのは、こうした原始的な「共感のしくみ」が残っているからだと考えられます。
まとめ
鳥肌は、ただの「寒いときのブツブツ」ではありません。
・動物にとっては、毛を立てて体温を守る大事な仕組み
・人間ではその名残でありつつ、皮膚の温度を少し守ろうとする反応
・長期的には、毛を増やすスイッチとして働き、環境への適応や毛髪・皮膚の再生に関わる
・恐怖や感動、さみしさ、共感など、さまざまな感情を体で表現するサイン
つまり、鳥肌は「不要なもの」どころか、
体の防御、環境への適応、心の動きなどを教えてくれる、とても多機能な反応なのです。
寒いときや感動したとき、自分の腕に鳥肌が立っていたら、
「今、私の中でこんなにたくさんの仕組みが動いているんだな」と、少し意識してみるとおもしろいかもしれません。

