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ハムレットってどんなお話?

もくじ

ハムレットのあらすじ

舞台は北国デンマークの王宮エルシノア城。王子ハムレットの父である先王が急死し、そのすぐ後に叔父クローディアスが王位を継ぎ、しかもハムレットの母ガートルードと結婚してしまいます。ハムレットはこの展開に深い悲しみと嫌悪を抱き、黒い喪服を着て一人沈んでいました。

ある夜、城の城壁に「先王の亡霊」が現れます。亡霊はハムレットに、自分は蛇に噛まれて死んだのではなく、弟クローディアスに耳から毒を流し込まれて殺されたのだと明かし、復讐を命じます。しかし、その亡霊が本当に父の魂なのか、それとも人をだます悪魔なのか、ハムレットはすぐには信じきれません。

ハムレットは真相を確かめるため、自分は狂っているふりをしつつ、王の反応を探ります。

恋人オフィーリアをわざと冷たく突き放し、学友ローゼンクランツとギルデンスターンが「スパイ」であることも見抜きます。そして、父王毒殺とよく似た場面を含む「劇中劇」を上演し、クローディアスの顔色をうかがう作戦に出ます。毒殺の場面で王は激しく動揺して席を立ち、ハムレットは「やはり犯人はクローディアスだ」と確信します。

ところが、いざ王を殺せる絶好の機会が訪れても、ハムレットは「今殺せば祈りの最中で、王の魂が天国へ行ってしまうかもしれない」と考え、剣を引いてしまいます。その直後、母の寝室でカーテンの裏に隠れていた宰相ポローニアスを、王と勘違いして刺し殺してしまい、事態は一気に悪化します。

父を失い、さらに恋人ハムレットに拒絶されたオフィーリアは正気を失い、川で死んでしまいます。オフィーリアの兄レアティーズは激怒して帰国し、クローディアスはその怒りを利用して、毒を塗った剣と毒入りの杯を使った「決闘による暗殺計画」を立てます。

最後の決闘の場面で、レアティーズとハムレットは互いに毒剣で傷つき、さらに王妃ガートルードはハムレットのために用意されていた毒の杯を誤って飲んで死にます。レアティーズは瀕死の中で陰謀を白状し、ハムレットはついにクローディアスを毒剣で刺し、毒の杯を無理やり飲ませて倒しますが、自身も毒が回り、親友ホレイショーに「自分の物語を語り継いでほしい」と託して息を引き取ります。

「後は沈黙だ」というハムレットの最期の言葉の後、ノルウェーの王子フォーティンブラスが兵を率いて現れ、ハムレットに軍人としての葬儀を行うよう命じます。こうして腐敗したデンマーク王家は滅び、外から来たフォーティンブラスが新たな秩序を打ち立てることになるのです。

ハムレットってどんな作品?

ハムレットは、イギリスの劇作家ウィリアム・シェイクスピアが1600年前後に書いた悲劇です。表向きは「父を殺された王子が復讐する話」ですが、その中身はとても複雑です。

復讐劇でありながら、主人公ハムレットはすぐには復讐せず、ひたすら「生きるとは何か」「死とは何か」「善悪はどう判断すべきか」と考え続けます。そのため、アクションよりも心の動きが中心に描かれているのが特徴です。

ハムレットは、こうした内面の迷いや不安を深く描いた作品として、「近代的な人間の悩みを最初に表現した戯曲」とも言われています。今でも世界中で上演され、研究され続けていて、まさに「終わりのない問い」を投げかける作品です。

物語の元ネタとシェイクスピアの工夫

ハムレットの物語は、シェイクスピアの完全なオリジナルではありません。もとになった伝説や、先行作品があります。

まず、中世デンマークの歴史書に出てくる「アムレート」という人物の伝説が原型です。このアムレートも、父を殺した叔父に復讐するために「狂ったふり」をするという点ではハムレットと似ています。ただし、アムレートは迷ったり悩んだりせず、敵を倒して王になる「成功した復讐者」です。

さらに、シェイクスピアの少し前の時代に、「原ハムレット」と呼ばれる今は失われた戯曲があり、そこには「亡霊」や「劇中劇」など、ハムレットとよく似た要素があったと考えられています。

シェイクスピアのすごさは、こうした素材を単純な復讐物語としてではなく、「人間の心の闇と迷い」を中心に据えたドラマに作り変えたところにあります。復讐はむしろきっかけで、その裏でハムレットが何を考え、何を恐れ、なぜ動けないのか、が丁寧に描かれていきます。

物語の流れをざっくりおさらい

あらすじで全体は押さえましたが、各幕で何がポイントになるかを軽く整理しておきます。

第1幕 亡霊の登場と「復讐せよ」という命令

・城壁に先王の亡霊が現れ、ハムレットに自分の死は弟クローディアスによる毒殺だったと告げる
・ハムレットは「復讐せよ」と命じられるが、亡霊の正体が本当に父なのか疑いを持つ
・母ガートルードの早すぎる再婚もあって、世界全体が「腐った庭」のように見え始める

第2幕 狂気のふりとスパイ合戦

・ハムレットは狂ったふりをしながら王の罪を探ろうとする
・宰相ポローニアスは、ハムレットの異常を「恋の病」と勘違いする
・王はハムレットを監視するため、学友ローゼンクランツとギルデンスターンを呼び寄せる
・劇団が城に到着し、ハムレットは「劇中劇で王の反応を試す」計画を立てる

第3幕 「生きるべきか」と劇中劇、そして最初の殺人

・有名な独白「生きるべきか、死ぬべきか」が語られ、ハムレットの存在への悩みが頂点に達する
・父の毒殺を再現した劇中劇を見て、クローディアスは動揺し、犯人だとほぼ確定する
・祈っている王を殺すチャンスが来るが、「今殺せば王が天国へ行くかもしれない」と考え、ハムレットは手を止める
・その後、母の部屋でカーテンの裏に隠れていたポローニアスを、王と勘違いして殺してしまう

第4幕 狂気の連鎖と復讐の連鎖

・オフィーリアは父の死とハムレットの拒絶に耐えきれず、狂気に陥り、水死する
・兄レアティーズが帰国し、父と妹の死に怒り、ハムレットへの復讐を誓う
・クローディアスはレアティーズと共に、毒剣と毒杯を使った暗殺計画を立てる

第5幕 墓場の哲学と最後の決闘

・墓掘りとのやりとりやヨリックの頭蓋骨を通して、ハムレットは「死は誰にも平等に訪れる」と悟る
・「覚悟がすべてだ」と言い、運命を受け入れる態度に変化する
・決闘で毒剣と毒杯が次々と火を噴き、王妃・レアティーズ・クローディアス・ハムレットが立て続けに死んでいく
・ハムレットはホレイショーに「自分の物語を語ってくれ」と頼み、静かに息を引き取る

主な登場人物とその役割

簡単な人物相関を整理しておきます。

登場人物立場・役割ハムレットとの関係・特徴
ハムレットデンマーク王子主人公。深く考えすぎて行動できない。哲学的で皮肉屋。
クローディアス現在の王、叔父先王殺しの犯人。有能な政治家だが、道徳的には腐敗している。
ガートルード王妃、ハムレットの母先王の未亡人なのに、すぐクローディアスと再婚。善悪より安定を優先しがち。
亡霊先王ハムレットの霊ハムレットに復讐を命じる。正体が善霊か悪魔か分からない存在。
オフィーリアポローニアスの娘ハムレットの恋人。従順で、周囲の男性に振り回されて悲劇的な最期を迎える。
ポローニアス宰相おしゃべりで策を弄するタイプ。何でも監視しようとして、裏目に出る。
レアティーズオフィーリアの兄行動派の若者。ハムレットの「対照」として描かれる復讐者。
ホレイショーハムレットの友人冷静で忠実な友人。最後まで生き残り、物語を語り継ぐ役目を担う。
フォーティンブラスノルウェーの王子領土回復のために軍を動かす行動力の象徴。最後にデンマークを引き継ぐ。

このように、ハムレットの周りには「すぐ行動する人」「権力に従う人」「何も言えず壊れてしまう人」など、さまざまなタイプが配置され、ハムレット自身の迷いが浮き彫りになるような構図になっています。

ハムレットはなぜ復讐をためらうのか

ハムレットのいちばん大きな謎が「なぜすぐに復讐しないのか」という点です。昔から多くの学者や批評家が、この問題について議論してきました。

大きく分けると、次のような理由が重なり合っていると考えられます。

  1. 宗教的な不安
    • 亡霊が本当に父の魂なのか、それとも人を罪に落とすための悪魔なのか、ハムレットには分かりません。当時のプロテスタントの考え方では、死者の魂が現世に戻ってくること自体が疑わしいものだったからです。もし亡霊が悪魔なら、復讐に走ることは自分の魂を危険にさらすことになります。
  2. 道徳的なためらい
    • 王殺しは単なる個人的復讐ではなく、「国家の頭を斬る」行為です。たとえ相手が悪人でも、その罪と罰を自分一人で決めていいのか。自分の手で血を流してまで復讐することは正しいのか。ハムレットはそこに強い抵抗感を覚えています。
  3. 性格的・心理的な要因
    • ハムレットはとにかく「考え込むタイプ」です。行動する前に、あらゆる可能性を頭の中でシミュレーションしてしまいます。その結果、行動するタイミングを逃し、自己嫌悪に陥り、さらに動けなくなる、という悪循環に陥っています。
  4. 無意識の葛藤
    • 心理学者フロイトは、ハムレットの叔父クローディアスが「父を殺し母を自分のものにした男」であることに注目しました。それは、子どもが無意識のうちに抱く「父への対抗心」と「母への独占欲」の極端な形でもあります。ハムレットは、クローディアスの罪の中に、自分自身の無意識の願望を見てしまうため、彼を罰することにためらいが生じる、という読み方もあります。

このように、ハムレットの「遅れ」は単なる「優柔不断」ではなく、宗教・道徳・心理などさまざまなレベルでの葛藤の結果として描かれていると考えられます。

作品にちりばめられた主なテーマ

死と生

ハムレットには、死に関する場面や言葉が何度も出てきます。父の死、ポローニアスの死、オフィーリアの死、墓場の場面、そして最後の大量死。死は、単なる怖いものではなく、「誰にも平等に訪れるもの」「生をどう生きるかを考えさせるもの」として描かれています。

墓掘りと話す場面で、ハムレットは有名人も偉大な王も、死ねば同じ骨と塵になると悟ります。そして「覚悟がすべてだ」と、死を恐れるより「どう受け止めるか」に重心を移していきます。

腐敗と病

「デンマークの国には何か腐ったものがある」という台詞に象徴されるように、この劇には「腐る」「膿む」「病気になる」といったイメージがたくさん出てきます。

・父王殺しと近親婚まがいの結婚は、国家という体の「病気」
・宮廷内の監視や密告の空気は、社会全体をむしばむ「ウイルス」

ハムレットにとって、世界は「雑草だらけで荒れ果てた庭」のように見えています。

見かけと本音

登場人物の多くが「何かを隠して」生きています。

・クローディアスは、立派な王の顔の下に殺人者の本性を隠している
・ポローニアスは忠臣の顔でスパイ行為をする
・ローゼンクランツとギルデンスターンは「友人」の顔でハムレットを売る
・ハムレット自身も、「狂ったふり」で本心を隠す

そんな世界で、逆に「演劇」という作られた虚構だけが、本音をあぶり出す装置になります。劇中劇はその象徴で、「芝居」が現実を暴くという逆転が起きています。

女性像と女性嫌悪

ハムレットは、「弱き者よ、汝の名は女なり」というきつい言葉を吐きます。母ガートルードの再婚にショックを受けたことで、女性全体に対する不信感が強まり、オフィーリアにも疑いと怒りをぶつけてしまいます。

オフィーリアは、父・兄・ハムレットなど、周囲の男性に振り回され、自分の言葉を持つことができません。最後は狂気と歌と花によってしか自分を表現できず、命を落とします。この姿は、男性中心社会の中で自分を失ってしまう女性の象徴としても読まれています。

宗教と政治の影

ハムレットを理解するうえで、当時の宗教事情も重要です。

亡霊が自分は「煉獄の炎で苦しんでいる」と語る場面があります。煉獄はカトリックの考え方で、プロテスタントは基本的に認めません。当時のイングランドは表向きプロテスタントの国でしたから、観客にとっても「亡霊は本物の魂なのか、それとも悪魔なのか」は大きな問題でした。

また、「王の二つの身体」という考え方もありました。王には「普通の人間としての身体」と、「国家を代表する特別な身体」の二つがある、という考え方です。王を殺すことは、個人を殺すだけでなく、国家そのものに刃を向ける行為になってしまいます。ハムレットが王殺しをためらうのは、単に怖いからではなく、この重さを分かっているからだとも言えます。

日本でのハムレットの受け止められ方

日本では、明治時代以降、多くの翻訳と上演が行われてきました。特に有名なのが「生きるべきか、死ぬべきか」の訳です。

・「世にある、世にあらぬ、それが疑問じゃ」
・「生か、死か、それが疑問だ」
・「このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ」

このように、訳す人の時代背景や考え方によって、言葉のニュアンスが変わっていきます。日本人が「自分とは何か」「生きるとは何か」と向き合ってきた歴史が、そのまま訳の変化にも表れていると言えるでしょう。

「尼寺へ行け」という台詞も、日本語では単に「出家してこい」という意味に聞こえますが、英語では「売春宿」という隠語も含んでいます。この両方の意味をどう表現するかは、翻訳者や演出家の工夫の見せどころです。

おわりに

ハムレットは、父の復讐をするかどうかという表向きの筋の裏で、「考えすぎて動けなくなる人間」の姿を描いた作品です。中世の「復讐は義務」という考えと、「本当にそれでいいのか」と悩む近代的な良心との間に引き裂かれた人物がハムレットだとも言えます。

彼は最後まで「正しい行動とは何か」「生きる意味とは何か」に決定的な答えを出しません。しかし、その代わりに「問い続けること」をやめません。その苦しみと誠実さこそが、時代や国を超えて多くの人に共感されてきた理由なのだと思います。

最後に残るのは、剣や戦争の力ではなく、一人の若者が言葉と悩みを武器に世界と向き合ったという記憶です。「後は沈黙だ」という言葉は、物語の終わりであると同時に、読む人・観る人一人一人が、自分自身の「生きるべきか」を考え始めるための静かなスタートラインになっています。

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