電卓やパソコンのテンキーを使うときと、スマホの電話画面やATMで数字を押すとき。
実は、同じ数字なのに「並び方が逆」になっています。

結論を先に言うと、この違いは
・どちらかが間違っているから
ではなく
・電卓は「計算のしやすさ」
・電話は「覚えやすさ・押し間違えにくさ」
を優先して、別々の道を進んだ結果です。
その後、国際的な決まりとして固定されてしまったので、今も「逆のまま」残っています。
電卓の数字は「プロが速く計算するため」の配置
昔の計算機は、今の電卓のような小さな電子機器ではなく、歯車やバネで動く大きな機械でした。
この機械では、
・大きい数字ほど中の歯車をたくさん回す
・小さい数字はちょっとだけ動かす
というしくみでした。
そのため、
・たくさん動かすキー(9など)は奥側
・少しだけ動かすキー(1など)は手前側
にあった方が、機械の作りとして都合がよかったのです。
さらに、現実の数字データでは
・1や2など小さい数字が先頭に来ることが多い
・9のような大きい数字が先頭になることは少ない
という偏りがあります。
だから、よく使う小さい数字を手前(下の段)に置いておくと、
・指をあまり動かさなくてすむ
・長時間の入力でも疲れにくい
というメリットがあります。
こうして

という電卓の並びは、
・経理などのプロが
・片手で大量の数字を
・素早くミス少なく打つ
ために選ばれた「仕事用の最適配置」だったと言えます。
電話の数字は「読みやすさ・覚えやすさ」の配置
一方で、電話の数字は全く違う考え方で決められました。
電話番号は、計算に使う数字ではなく
・紙に書いてある番号を見て押す
・誰かが読み上げた番号を聞いて押す
・自分で覚えている番号を思い出して押す
といった「順番どおりに入力するための数字列」です。
人間は、文字や数字を読むとき
・上から下へ
・左から右へ
とたどっていきます。
そこで、電話の研究をしていたベル研究所は、いろいろな並び方を試した結果、

という
・1がいちばん上の左
・数字がだんだん下に続いていく
配置が、もっとも「直感的で分かりやすい」と判断しました。
つまり、電話は
・速さよりも
・間違えにくさ
・初めての人にも分かりやすいこと
を大事にして、この並びを選んだのです。
電話ならではの事情「アルファベットの対応」
昔のアメリカの電話番号には
・「AB1-2345」のように
・文字と数字を組み合わせた番号
がよく使われていました。
そのため、電話機には
・2のキーに ABC
・3のキーに DEF
といったように、数字とアルファベットの対応が印字されていました。
もし電卓と同じ配列にしてしまうと
・数字の位置が変わる
・文字との対応関係がずれてしまう
などの大問題が起きます。
そこで、電話側は
・数字が1から9まで上から順に並ぶ
・アルファベットも上から順に見ていける
という配置を守る必要がありました。
この「文字との対応」を守るためにも、1 2 3 を上にした配列が選ばれたのです。
なぜ「どちらかに合わせない」のか
電卓と電話で配列が分かれたあと、
・電話側の配列は ITU という国際機関の規格に
・電卓側の配列は ISO という国際機関の規格に
それぞれ正式に決められました。
世界中で同じ並びを使うためには、こうした「国際標準」が必要です。
しかし、一度標準として広まってしまうと、
・世の中の機械を全部作り直さなければならない
・ユーザーの慣れも、やり直しになる
という大きなコストがかかります。
そのため、
・電卓は電卓のまま
・電話は電話のまま
という「二つの標準が並んだ状態」が、そのまま続いているのです。
ATMやスマホはどうしているのか
ATMはお金を扱う機械ですが、数字の並びは電話と同じです。

これは、ATMが
・計算のためではなく
・暗証番号を入力するための公共端末
だからです。
暗証番号は
・計算しない
・覚えた数字列を再現するだけ
なので、「電話と同じ並びの方が多くの人にとって分かりやすい」と考えられました。
スマホの中ではもっと分かりやすく、
・電話アプリ → 電話配列(1 2 3 が上)
・電卓アプリ → 電卓配列(7 8 9 が上)
と、アプリごとに自動で切り替わっています。
それでも混乱せずに使えるのは、私たちの脳が
・「電話のときの数字の感覚」
・「計算のときの数字の感覚」
を、無意識に使い分けているからだと考えられます。
わざとバラバラにする「ランダム配列」のキーパッド
銀行アプリや入退室システムなどでは、あえて
・数字の位置が毎回変わる
・1の場所も2の場所も毎回違う
というランダム配列のキーパッドが使われることがあります。
これは、
・指の動きや位置を見られても
・暗証番号が推測されにくいようにする
ための安全対策です。
ここでは、
・速さや打ちやすさよりも
・セキュリティ(安全性)
が優先されるので、電卓配列や電話配列のような「慣れ」をあえて壊しています。
まとめ
電卓と電話の数字配列が逆なのは、単なる気まぐれではありません。
電卓
・もともと歯車で動く機械からスタートした
・よく使う小さい数字を手前(下)に置いた方が速くて楽
・プロが大量の数字を計算するための道具
電話
・数字は「計算」ではなく「読み上げて押すもの」
・上から順に読んでいく感覚に合わせて1を上に置いた
・アルファベットとの対応も守る必要があった
・誰でも間違えにくいことを優先
それぞれの世界で「その用途に最適な形」を追い求めた結果、
電卓と電話は逆向きの配列になりました。
そして、それぞれが国際的な標準として固定されてしまったため、今でもこの「ねじれ」が残っています。
私たちが何気なく数字キーを押すとき、実はその指先の動きの裏側には、
・機械の都合
・人間の感覚
・歴史と標準化の積み重ね
が隠れています。
次に電卓と電話の配列の違いに気づいたら、こうした背景を少し思い出してみてください。

