空を見上げると、晴れた日はきれいな青。夕方には赤やオレンジ。ときには白っぽくかすんで見えることもあります。
この色の変化には、光の性質、大気の成分、人間の目のしくみという三つの世界が深く関わっています。
ここで先に結論をまとめると、空が青く見えるのは、次の五つが組み合わさっているからです。
1つ目は、大気中の小さな分子が短い波長の光(青・紫)を特によく散乱すること。
2つ目は、そもそも太陽から来る紫の光の量が青より少ないこと。
3つ目は、オゾンが赤やオレンジの光を少し吸収して、青を際立たせていること。
4つ目は、人間の目が紫にはあまり敏感でなく、青として感じやすいこと。
5つ目は、ほこりや水滴による散乱が、空の色を場所や天気によって白っぽく変えていることです。
ここからは、それぞれを順番にやさしく見ていきます。
光と大気の基本をおさえよう
太陽の光は一色ではなく、赤・オレンジ・黄・緑・青・紫など、いろいろな色が混ざった「白い光」です。
色の違いは「波長」という長さで表され、だいたい次のような範囲になります。
- 赤…波長が長い(約700ナノメートル)
- 青…中くらい(約450ナノメートル)
- 紫…もっと短い(約400ナノメートル)
一方、地球の大気は主に窒素と酸素の分子でできていて、その大きさは光の波長よりはるかに小さい「とても小さい粒」です。
この「小さい粒」と「波長の違う光」が出会うことで、空の色が生まれます。
レイリー散乱がつくる「青い空」
光が自分よりずっと小さな分子にぶつかると、その分子は一瞬だけ電気的にゆさぶられて、いろいろな方向に光をばらまきます。
これをレイリー散乱と呼びます。
このときの大事なポイントは「波長が短いほど、ものすごく散乱されやすい」という性質です。
教科書的には「散乱の強さは波長の4乗に反比例する」と書かれますが、イメージだけつかめば大丈夫です。
例えば
- 赤い光(700ナノメートル)と
- 紫に近い光(400ナノメートル)
を比べると、計算すると紫側の光は赤の約9倍も強く散乱されます。
青(450ナノメートル)でも赤の5〜6倍ほど散乱されます。
昼間、太陽からやってきた光が大気を通ると、赤や黄などの長い波長の光はあまり散乱されず、まっすぐ進んでいきます。
一方、青や紫など短い波長の光は大気分子にたくさんぶつかり、あらゆる方向へ散らばります。
太陽以外の方向、つまり空の方を見たとき、目に飛び込んでくるのは、この「大気によって散乱された光」です。
その中でも、青〜紫あたりの成分が特に多いので、空は青っぽく見えるわけです。
それでも「空が紫じゃない」理由
ここで素朴な疑問が出てきます。
短い波長ほどよく散乱されるなら、紫がいちばん強く散乱されるはずなのに、どうして空は紫ではなく青に見えるのでしょうか。
その理由は、おおきく三つのステップで説明できます。
1つ目は「太陽の光そのものの量の違い」
2つ目は「オゾンによる吸収」
3つ目は「人間の目の感度」の違いです。
太陽の光は青が多く、紫が少ない
太陽は表面温度が約5800ケルビンの高温のガスのかたまりで、その光は「黒体放射」というルールにだいたい従っています。
このルールからわかるのは、太陽からのエネルギーは
- 青〜緑(だいたい500ナノメートル付近)が一番多く
- 紫(400ナノメートル付近)になると急に少なくなる
ということです。
つまり
- 散乱されやすさは「紫の勝ち」
- そもそもの光の量は「青の勝ち」
という状態になっています。
散乱される光の量は
「散乱されやすさ」×「最初に来ていた光の量」
で決まるので、結局、大気中で一番目立つのは「青〜青紫」あたりの光になります。
これが、紫ではなく青寄りの色になる理由の一つ目です。
オゾンが赤をうすくして「深い青」にする
次に、成層圏にあるオゾンの働きです。
オゾンは紫外線を吸収することで知られていますが、実は可視光の一部も吸収します。
この吸収帯はチャピュス帯と呼ばれ、特にオレンジ〜赤(600ナノメートル付近)をよく吸収します。
その結果、次のようなことが起こります。
- 大気を長く通ってきた光から、赤やオレンジが少しだけ抜き取られる
- 残った光の中で、青の割合が相対的に増える
このおかげで、空の青は「にごった白っぽい青」ではなく、「少し深く澄んだ青」に近づきます。
特に夕方や日の出近くの時間は、光が大気を通る距離が長くなるので、このオゾンの効果が強く出て、天頂付近が濃い藍色っぽく見えることがあります。
人間の目が青として受け取っている
ここまでで、物理的には青〜紫の光が多く散乱されていることがわかりました。
しかし、最後に「それをどう感じるか」を決めるのは、人間の目と脳です。
三種類の錐体細胞
人間の網膜には、主に次の三種類の錐体細胞があります。
- S錐体…短い波長(青〜紫)に敏感
- M錐体…中くらいの波長(緑)に敏感
- L錐体…長い波長(赤〜黄)に敏感
この三つの反応の組み合わせで「どんな色に見えるか」が決まります。
けれども、S錐体は
- 青(450ナノメートル)にはよく反応するのに
- もっと短い紫(400ナノメートル)になると急に反応が弱くなる
という特徴があります。
さらに、目のレンズや角膜が紫外線をよく吸収してしまうので、400ナノメートルより短い光は、そもそも網膜まで届きにくいのです。
「紫」が打ち消されて「青」になる
もう一つ大事なのは、L錐体(赤に敏感な細胞)は、実は少しだけ紫にも反応するという点です。
純粋な紫色の光だけを見ると「青を感じるS錐体」と「赤を感じるL錐体」が同時に刺激されて、それを脳が「紫」として認識します。
ところが、空からくる光は、単純な紫一色ではありません。
青、少しの紫、わずかな緑や赤などが混ざった「広い範囲の光」の寄せ集めです。
その結果
- 青成分によってS錐体が強く反応
- 同時に、緑や赤の成分によってM錐体やL錐体もほどよく反応
という状態になり、脳の中で行われる「反対色」の処理では、全体として「紫っぽさ」より「青っぽさ」が勝つように信号が組み合わされます。
こうして私たちは、空を「淡い青」や「水色」に近い色として感じているのです。
ミー散乱が空を白っぽくする
理想的にきれいな大気だけなら、空はもっと濃い青色になるはずです。
でも実際には、地平線に近いところほど白っぽくかすんで見えたり、都市では全体的に灰色がかって見えたりすることがあります。
これは、レイリー散乱とは別の「ミー散乱」が原因です。
粒が大きくなると起こる散乱
大気中には、ガス分子だけでなく
- 水滴(霧や雲)
- 砂ぼこり
- 花粉
- 煙や排気ガスの粒
などの「エアロゾル」と呼ばれる粒も浮かんでいます。
これらは光の波長と同じくらいか、それより大きいサイズです。
粒がこのくらいの大きさになると、散乱のしかたはレイリー散乱ではなく、ミー散乱というタイプになります。
ミー散乱の特徴は、波長による差が小さく、赤も青もほぼ同じように散乱してしまうことです。
赤・緑・青が同じくらい混ざった光は、人間の目には「白っぽい光」に見えます。
だから
- 雲が白く見える
- かすんだ空が白っぽく見える
といった現象が起こるのです。
見る方向による違い
- 頭の真上(天頂)を見ると、大気を通る距離が短く、エアロゾルの影響が少ないので、レイリー散乱の青がよく見える
- 地平線の近くを見ると、大気を通る距離が長くなり、エアロゾルの影響が強く出るので、白っぽくにごって見える
という違いもここから説明できます。
夕焼けが赤くなるのはレイリー散乱の「裏側」
夕方、太陽が地平線近くに来ると、光は斜めに大気を通ることになります。
このとき、太陽光が通る大気の距離は、真上にあるときの約30〜40倍にもなります。
その長い道のりのあいだに、青や紫など短い波長の光は、レイリー散乱によってどんどん横に散らされてしまいます。
結果的に、私たちの目に「まっすぐ届く」光の中には
- 赤
- オレンジ
- 黄色
のような、波長の長い色だけが多く残ることになります。
これが、夕日や夕焼けの雲が赤〜オレンジ色に見える理由です。
惑星によって「空の色」が変わる理由
「空の色」は、どんな星でも同じではありません。
地球以外の天体では、大気の厚さや成分が違うため、空の色も変わります。
- 地球
大気はほどよい厚さで、レイリー散乱とオゾンの効果により青い空と赤い夕焼けが見える - タイタン(⼟星の衛星)
大気がとても厚く、短い波長の光は表面まで届きにくいので、空が暗いオレンジ色っぽくなると考えられている - 火星
薄い大気だが、細かい赤い塵が多く、昼は空が赤茶色に見え、夕方には逆に青っぽい夕焼けが見えることがある
このように、大気の厚さや成分が変わると、「どの波長の光がどれだけ散乱・吸収されるか」が変わり、空の色も変化します。
数字で見る「空の青さ」
光の色は、感覚だけでなく、数字でも表すことができます。
色温度で見る
光源の色味を表す指標に「色温度(ケルビン)」があります。
- ロウソク…約2000ケルビン(赤っぽい)
- 白熱電球…約2800〜3000ケルビン(あたたかい白)
- 昼の太陽光…約5500ケルビン(ほぼ白)
- 曇り空…約6500〜7000ケルビン(少し青み)
- 青空からの光…1万ケルビン以上(かなり青みが強い)
数字が大きいほど「青っぽい光」と考えることができ、青空はとても高い色温度をもつ光源だとわかります。
色度図で見る
CIEと呼ばれる国際的な規格では、色を平面上の座標として表す方法があります。
澄んだ青空の色は、この図の中で、白よりも青側に寄った位置にプロットされますが、完全な単色の青よりは少し内側にあります。
これは、空の光が
- レイリー散乱によって短波長側が強くなりつつも
- ミー散乱などで白い光も混ざっている
という「ほどよく淡い青」であることを意味しています。
まとめ
ここまで見てきたように、「空はなぜ青いのか」という問いに対する答えは、一つの理由だけでは説明できません。
- 大気中の小さな分子によるレイリー散乱が、短い波長の光を強く散乱し、空全体に青〜紫の光をばらまいている
- 太陽の光そのものが、紫よりも青〜緑の光を多く含んでいて、散乱された光のピークを青側に寄せている
- オゾンが赤やオレンジを少し吸収して、青成分の純度を上げ、特に夕方の天頂の空を深い藍色にしている
- 人間の目は紫にはあまり敏感でなく、脳の中の信号処理の結果、実際には青として感じるようになっている
- ほこりや水滴などによるミー散乱が、地平線付近の空や雲を白っぽく見せ、天気や場所によって空の色合いを変えている
青い空は、ただの「一色」ではなく、太陽から来る光、大気の性質、そして私たちの目と脳のしくみが重なって生まれた、自然と生命の共同作品といえます。
毎日何気なく見上げている空の色の中には、これだけ多くの物理・化学・生理学の要素がつまっているのです。

