ロマネスコってなんであんな形?
フラクタル野菜のふしぎをやさしく解説します。
「フラクタル野菜」ロマネスコってどんな野菜?
スーパーなどでたまに見かける、黄緑色でトゲトゲした不思議な野菜、ロマネスコ。
見た目はほぼ「芸術作品」ですが、実はカリフラワーの一種で、正式には
Brassica oleracea var. botrytis(ブラスカ・オレラケア・ボトリティス)という学名を持つ植物です。
一番の特徴は、「同じ形がくり返し現れる」こと。
大きなとんがりが集まって頭全体をつくり、その一つ一つのとんがりをよく見ると、また小さなとんがりの集まりでできていて、さらに拡大すると…また同じような形が出てきます。
この「大きさを変えても同じ形がくり返し現れる」性質を
フラクタル(自己相似性)といいます。
ロマネスコは、自然界にある「ほぼ完璧なフラクタル」に近い例として、数学者や生物学者から注目されてきました。
フラクタルとフィボナッチ数列の関係
ロマネスコの表面をよく見ると、とんがりがぐるぐるとらせん状に並んでいます。
この「らせんの数」を数えると、多くの場合、フィボナッチ数列と呼ばれる数の並びになっています。
フィボナッチ数列とは
0, 1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, …
というように、「前の2つの数を足したものが次の数」になる数列のことです。
ロマネスコでは、例えば
・時計回りのらせんが 8 本
・反時計回りのらせんが 13 本
といったように、「フィボナッチ数どうし」の組み合わせになることが多いとされています。
なぜこんな並びになるのかというと、植物は、限られたスペースにできるだけ効率的に「つぼみ」を並べたいからです。
・新しいつぼみが生える角度が、特別な角度(黄金角 約137.5°)に近いと
・前にできたつぼみと重ならず、無駄なすき間を作らずに並べられる
この結果、生物の形の中に、自然とフィボナッチ数列やらせん模様が現れます。
ヒマワリの種の並びや、松ぼっくりの模様も同じ仕組みです。
ロマネスコと普通のカリフラワーはどこが違う?
ロマネスコも白いカリフラワーも、もともとは同じ植物(キャベツの仲間)から生まれた品種です。
どちらも「花になるはずだった部分」が巨大に増えたものですが、形が大きく違います。
ざっくり比べると、こんなイメージです。
・白いカリフラワー
→ 丸くて雲のような「もこっ」とした塊
→ 表面のらせん模様は目立ちにくい
・ロマネスコ
→ 円錐(とんがり)をぎっしり並べたピラミッド状
→ フラクタル構造がはっきり見える
研究によると、両者の大きな違いは、「新しいつぼみをつくるスピード」にあります。
・普通のカリフラワー
→ つぼみを生み出すスピードがだいたい一定
→ 全体がふんわり丸くふくらんでいく
・ロマネスコ
→ 時間がたつほど、つぼみを生むスピードがどんどん加速する
→ 膨れ上がる量をおさめるために、外側へ上へと伸びて「円錐形」になっていく
つまり、ロマネスコのとんがった形は「爆発的に増えるつぼみを、ぎゅうぎゅう詰めにしながら並べた結果、幾何学的にそうならざるをえなかった形」と言えます。
遺伝子レベルで見ると何が起きているのか?
では、「なぜ」ロマネスコだけ、そんなおかしな増え方をするのでしょうか。
ここで登場するのが、花のなり方をコントロールしている遺伝子ネットワークです。
研究では、ロマネスコやカリフラワーの形づくりに関わる4つの重要な遺伝子グループが見つかっていて、それを頭文字をとって S-A-L-T と呼んでいます。
ここでは内容を大幅にかみ砕いて説明します。
・S(SAX)
→ 「さあ、そろそろ花の方向に進もうか」と、花づくりのスイッチを入れ始める役
・A(AP1)
→ 「あなたはもう花として生きなさい」と最終決定するボス役
→ これが正常に働くと、蕾はちゃんと花になって止まる
・L(LFY)
→ 「花になれ花になれ」と後押しする応援役
・T(TFL1)
→ 「まだ花になるな、もっと伸びろ」とブレーキをかける役
→ 茎として伸び続ける性質を保つ
普通の植物では、
- 花になるスイッチが入る
- A(AP1)がしっかり働き、「ここから先は花モードで」と決める
- T(ブレーキ役)は抑えられ、ちゃんと花が完成する
という流れになります。
ところが、カリフラワーやロマネスコでは、この A(AP1)がうまく働きません。
その結果どうなるかというと、
・「花になれ」という信号は出る
・でも、決定ボス(A)がいないので、最後まで花にはなれない
・T(ブレーキ役)が効き続けて、「やっぱり茎モードに戻れ」と言い続ける
・それでも遺伝子たちは「いや、花になろうよ」と何度もトライする
この「行ったり来たり」がずっと続くため、
・花を作ろうとしては失敗し
・そのたびに新しい成長点(小さな芽)が生まれ
・それがまた「花になろうとして失敗」して…
という無限ループのような状態になります。
この結果、「決して咲かない花のつぼみ」が大量に重なり合い、あの大きな塊(カリフラワー/ロマネスコ)になる、というわけです。
なぜロマネスコだけあんなにフラクタルっぽいのか?
同じ「失敗した花」のメカニズムがあるなら、なぜ普通のカリフラワーはロマネスコみたいな形にならないのでしょうか。
ここで効いてくるのが
・つぼみを作るスピード(時間間隔=プラストクロン)
・成長点(メリステム)の大きさ
です。
研究者たちは、モデル植物(シロイヌナズナ)の遺伝子をいじって、
・花になる決定遺伝子を失わせる(カリフラワー状態を再現)
・さらに「成長点を大きくし、つぼみを産むスピードを加速」
という操作を行いました。すると、その植物に
・ミニチュア版ロマネスコのような円錐形のフラクタル頭部
が現れたのです。
つまり、
- 花として完成できず、つぼみを増やし続ける仕組み(カリフラワー化)
- つぼみを作るスピードがだんだん加速する仕組み(ロマネスコ化)
この2つが組み合わさることで、
・丸いカリフラワーではなく
・とんがったフラクタル構造を持つロマネスコ
が生まれる、ということがわかってきました。
ロマネスコはどうやって生まれたのか?(歴史のお話)
ロマネスコは自然の中で勝手に生えた野生植物ではなく、人間の農業の歴史と深く結びついています。
もともとの元祖は、地中海沿岸に生えていた「野生キャベツ」です。
人間はこの野菜から、気に入った形や性質を持つものを、少しずつ選んで育て分けてきました。
・葉を重視 → ケール、キャベツ
・茎を重視 → コールラビ
・つぼみを重視 → ブロッコリー、カリフラワー、ロマネスコ
ロマネスコは特にイタリアのローマ周辺で育てられてきたとされ、
・名前の「ロマネスコ」は「ローマの」という意味
・16世紀ごろにはすでにヨーロッパの文献に登場している
と考えられています。
農民たちは、たまたま現れた「妙にとんがったつぼみを持つ」突然変異を、面白くておいしく、美しいと思い、何世代にもわたって選び残してきました。
その結果、偶然の変異+人間の好みが積み重なり、
あの「フラクタル野菜」が誕生した、と見ることができます。
ブロッコリー・カリフラワーとの比較(発生の違い)
同じキャベツの仲間でも、発生の過程には違いがあります。
・ブロッコリー
→ 花になる手前までちゃんと育った「花のつぼみ」の集まり
→ 放っておくと本当に花が咲く
→ 花としてのプログラムが最後まで進む
・カリフラワー
→ 花のごく初期段階で発生が止まった、「未完成の花芽」の塊
→ 花の器官(花びらなど)は作られない
→ つぼみを作ろうとしては止まり…をくり返す
・ロマネスコ
→ 基本はカリフラワーと同じ「失敗した花」
→ ただし、つぼみを生み出すスピードが加速し、成長点も大きい
→ その結果、円錐形のフラクタル構造があらわになる
見た目だけでなく、「どの段階で成長が止まるか」「どれくらいのテンポで芽を増やすか」という違いが、最終的な形を大きく変えているのです。
料理と栄養との関係
ロマネスコの不思議な形は、料理のしやすさや栄養にも影響しています。
・構造がぎゅっと詰まっていて、ブロッコリーより密度が高い
・加熱しても形が崩れにくく、コリコリした食感が残りやすい
・表面積が大きいので、オーブンで焼くと先端部分が香ばしくなりやすい
味の面では、
・ブロッコリーよりやや甘く
・カリフラワーほど「硫黄っぽい匂い」が強くない
・ナッツのような香ばしさがある
栄養面では、カリフラワーやブロッコリーと同じく
・ビタミンC
・ビタミンK
・カロテノイド(色素であり、抗酸化物質)
・食物繊維
などを豊富に含みます。鮮やかな黄緑色は、こうした色素・抗酸化物質によるものと考えられています。
まとめ:失敗から生まれた「完璧な美しさ」
ロマネスコは、一言でいうと
「花になりそこねたつぼみが、加速的に増え続けた結果生まれた、フラクタル構造の野菜」
です。
・花になるはずだったプログラムが、途中で何度も失敗する
・それでもあきらめず、「花になろう」とする芽が次々に生まれる
・増えすぎた蕾を収めるために、植物は円錐形へと成長せざるをえない
・その過程で、フィボナッチ数列やフラクタル幾何学が見える形で浮かび上がる
このように、ロマネスコの美しさは、
「偶然の失敗」+「遺伝子ネットワーク」+「空間の制約」
が生み出した、自然と数学と人間の歴史が交差した結果だと言えます。
もし次にスーパーでロマネスコを見かけたら、
「これは、咲けなかった花がつくったフラクタルアートなんだな」
と、ちょっとだけ思い出してみてください。

